諸国遍歴の旅を続けていらした禅海和尚(ぜんかいおしょう)様は、
ふとその場に立ち寄りました。
そこは、まるで行く手を阻むような難所でありました。
断崖絶壁の箇所に、鎖がかけられただけの難所で、
幾人もの通行人が命を落としていきました。
禅海和尚様は、ここにトンネルを掘り安全な道を作ろうと思われました。
とても硬い岩土でしたが、ノミと槌だけをふるって、黙々と墜道を掘っていきました。
そんな姿を村人達たちは、禅海和尚を あざ笑い冷ややかな目で見ておりました。
正直、禅海和尚様だって、何度辞めようと思ったことでしょう。
こんなことやっていてなんになるんだって、
何度もなんども思ったことでしょう。
「いや、いけない!私は皆さんのために、ここに安全な道をつくるんだ」
何度思い返し、何度自分を奮い立たせて再び槌をふるったことでしょう。
いつの頃からか、
それまででんで馬鹿にしていた村人達は、
和尚様の横についてそれを手伝っておりました。
それから、実に30年もの長い歳月が経ちました。
和尚様はすっかりと年をとられました。
カツン!
ふるった腕が力なく下にたれ落ちました。
バラバラと目の前の岩が前方に、落ちていきました。
「おお!光だ!光が見えるぞ!
村人の誰かがそう言いました。
「和尚様、見てください。光です。光が見えます」
「トンネルはついに完成しました」
「私たちは、ついにトンネルを掘りあげることができました!」
禅海和尚様のお顔が太陽の光に照らされると、
和尚様は静かに微笑みました。
和尚様の両の目は、長年暗闇にいたことと、
土とほこりが目に入ったことで、すっかりと見えなくなっておりました。
トンネルの長さは 342mでありました。